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オウム真理教と駒場祭

1.学生の「自主的活動」と外部団体

 駒場祭は駒場祭委員会の規約で「駒場生の自主的活動の発表の場」と位置づけられていることもあり、駒場の学生のある意味貧弱な活動を覆い隠してしまうような力を持つ外部の団体(例えば企業、政党、宗教団体など)による直接の行為を規制している。実際には、政治家による講演、宗教系サ−クルによる出し物なども見受けられるが、これらは駒場の学生による団体を主催団体として、あくまで駒場の学生がそれらの団体を呼ぶことも含め主体的に企画したもの、とみなしてなされているのである。他大学の学園祭に行ったり、そのプログラムを手にしたことのある方なら、駒場祭はいかに企業の影が薄いか、ということがお分かりいただけると思う。それはこういった事情によるのである。

 さて、ワイドショ−などで、オウム真理教の教祖「麻原彰晃」(以下敢えてこの名で記す)の講演中に突然照明が落とされ講演が途中で中止になった映像を見たことはないだろうか。学生がトランジスタ・メガホンを手に「この企画は中止されました」と声を張り上げ、取り囲むオウム真理教信者は口々に抗議を行う。これこそ、1995年に発生した地下鉄サリン事件の約2年半前、1992年の第43回駒場祭における900番教室で起きていた出来事だった。

 駒場祭が「駒場生の自主的活動の発表の場」であるという位置づけは、駒場の学生の手によらない行為を積極的に排除しようとする一方で、駒場の学生の手による企画はその参加を「権利」として保障しなければならないということを意味する。例え内容がいかに反社会的であると言われようと、駒場祭の安全と秩序を乱すことがない限り、その実行は十分に担保されなければならないのである。しかし実際には駒場の学生による団体が企画した、とみなされているはずの麻原彰晃の講演が途中で中止させられている。そこにはどのような事情があり、どのような経緯があったのだろうか。

2.前史

 麻原彰晃は前年の第42回駒場祭にも講演者として現れていた。「能力開発研究会」という企画団体が呼んだのだったが、狭いテントの中を麻原彰晃が50人ほどの人数で行列するような危険な行為や、オウム真理教の出版物の無料配付など駒場祭では学生の活動を阻害し国立大学としての規律にも反することから禁止されている外部団体(オウム真理教)自体の宣伝行為を行っていた。このことを問題視していた第43期駒場祭委員会は、団体の名称こそ「トレンド研究会」と変更されていたが再び麻原彰晃の講演会を企画したトレンド研究会と事前に協議を行い、前年のような事態が再発しないよう事前に講演会について駒場祭委員会とトレンド研究会が確認書を締結しておくことにした。


確認書

 トレンド研究会と第43期駒場祭委員会は、第43回駒場祭においてトレンド研究会が行う企画について、以下のことを確認する。

  1. トレンド研究会の企画の主体は、本学教養学部生であり、学外者および学外団体ではないこと。
  2. トレンド研究会は、行おうとする企画の内容をすべて事前に駒場祭委員会に届け出て、駒場祭委員会の承認を受けること。また事前に承認された内容以外は一切行わないこと。
  3. トレンド研究会は企画の実施にあたって、駒場祭委員会の指示に従うこと。
  4. 駒場祭委員会は、以上に反する内容や行為が認められた場合、トレンド研究会およびその企画に対して、企画の取りやめも含む厳重な処置を取り得ること。
以上
1992年11月19日

トレンド研究会 企画責任者 (署名)
第43期駒場祭委員会

3.第43回駒場祭当日

 第43回駒場祭は1992年11月21、22、23日の3日間に渡って開催された。麻原彰晃の講演会が行われたのは2日目である22日だった。それがなぜ中止を命じられるに至ったか。以下は中止を行った翌日に駒場祭委員会が企画への説明責任を果たすと同時に企画の動揺を防止するために配付した説明文書である。一方当事者の作成にかかる文書だが、状況を感ずるには都合が良い文書と思われる。


昨日の「麻原講演会」企画中止について〜
なぜKFCはブレ−カ−を落としたのか

(引用者注:KFCとは駒場祭委員会の略称です)

92年11月23日 第43期駒場祭委員会

 昨年、能力開発研究会主催の麻原彰晃講演会において、せまいテントの間を麻原氏を中心に50人位の行列が練り歩く、オウム真理教の出版物を無料配付する、宣伝用の気球をあげようとする、など、外部の団体を宣伝したり、危険であったりする行為がありました。このような、駒場祭のル−ルからの逸脱行為が繰り返されたことを考え、同じトラブルを招かないよう、今年、同じ麻原氏の講演会を企画したトレンド研究会の企画責任者とKFC(引用者注:駒場祭委員会のこと)との間で確認書が結ばれました。この確認書では、駒場生が主体で行う企画であること、事前にKFCに企画内容を伝えて承認を得るということ、もし、現実に相違があれば企画中止を含めた厳しい措置をとることが確認されました。

 ところが、昨日、トレンド研究会が、企画書になかった宣伝の行進を始めたため、(しかも行進をしないよう既に直接伝えてあり、企画責任者からもトレンド研メンバ−に対してその旨伝えてあったことが確認されています)KFCは、その行進をやめさせ、同時に責任者を呼んで注意しました。その後、会場の900番講堂にて、駒場祭企画と関係のない宣伝ビラ等配付、本・ビデオ・占星術診断プレゼントなどを行っていたので、KFCは、現場においてはこれらの個々の行為をやめさせるとともに、このような、自主規律(引用者注:駒場祭にあたり教養学部前期課程生が定めている規律。「学外団体の宣伝をしない」などが掲げられている)にも、確認書にも違反しているトレンド研の企画に対して、「企画中止」を決定しました。

 すでに、企画は始まっており、多くの来場者がいました。現場には多くのトレンド研メンバ−、オウム教団メンバ−がいたにも関わらず、KFCが再三、企画責任者、または、企画を実行している駒場生と(決定を伝えて平穏に企画を中止してもらうため)話がしたいと要請しても、現場にはそのような責任をとり得る人(駒場生)はいませんでした(もしくは、いても、トレンド研の人らは呼ぼうとしませんでした)。現場で企画を実行している人々との長い問答の末、そのような状況下で、KFCはブレ−カ−を落とし、物理的に企画を中止しました。

 以上が、昨日の件に関する事実のあらましですが、トレンド研は、確認書からの逸脱については認めています。しかし、KFCの決定については不服としています(抗議にきましたが、議論の中で明確な抗議理由を示さず、引き返しました)。

 KFCのとった、急遽ブレ−カ−を落として企画を物理的に中止させたという行為については、確認書からの逸脱、対話相手である駒場生の不在など理由はあったのですが、来場者もいたわけですし、議論のあるところと思います。駒場祭全体を総括する際、今後、同種の問題が起こったときどうすべきか、みなさんとともに、深く考えて行きたいと思っています。総括CC代(引用者注:企画団体の代表者に駒場祭委員会が集まってもらう会議のこと)を12/12(土)に行います。原稿を一般公募していますので、多くの企画の皆さんのご意見をお寄せください。

 駒場祭も残すところあと1日ですが、お互いに頑張りましょう。


4.評価

 その後、処分を不服としていたトレンド研究会やオウム真理教から駒場祭委員会への明確な接触はなかった。駒場祭委員会としては前記文書で書かれている通り、ある意味で反省を込めてこの事件を引き継いでいたのだが、妙なところからこの事件が脚光を浴びることになった。言うまでもない。1995年の地下鉄サリン事件と、それに続く一連の「オウム騒動」である。1995年には、当時の第46期駒場祭委員会の委員長があるテレビ局からこの第43回駒場祭の事件に関して取材を受けている。一躍全国ネット、となった訳だか、「オウム真理教に1992年の時点から対抗していた英雄」的な取り上げ方に対して1995年時点の委員でさえ違和感を感じていた。本来、全ての駒場生には駒場祭での発表の権利が保障されているはずである。それを、制限ならまだしも、いわゆる「死刑」である「企画中止」とし、さらに物理的にそれを来場者の目前で強制したのである。駒場祭に理想を燃やし、駒場祭を愛すればこそ、その処分にはどうしようもなかったという思いとともに、他に手はなかったのか、本当に妥当だったのか、という思いが浮かぶのである。

 駒場祭には、たった一つだけ企画内容に関わらず参加すら許されない団体がある。一般には統一教会の下部組織とされている「東大原理研究会」である。過去に学生自治に対する「自治破壊行為」を繰り返したとされ、例えば教養学部の学生自治会の諸会議でも退席が求められてきた。学生自治会や学友会によってかなりネガティブな宣伝が行われてきた(新入生など東大生をその被害から守るためとされている)。東大原理研究会の駒場祭参加も、駒場祭委員会自体の決定ではなく、教養学部学生自治会の代議員大会の決定で保留されているのである。統一教会や原理研究会が世間や東大でどれほどの反社会的行為を行っているか、それを正確に知ることはできない。しかし、彼らには半永久的に「死刑」が科され、抗弁の機会すら与えられているか怪しいのである。少なくとも駒場祭を「東京大学教養学部学生による学園祭」と誇る駒場祭委員会は、その「死刑」を前提とすることなく常に見直し、問い直すことが必要なのではないかと個人的には思われる。


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